睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に呼吸が一時的に止まったり(無呼吸)、浅くなったり(低呼吸)する病気です。大きく分けて「閉塞型睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome : OSAS)」と「中枢型睡眠時無呼吸症候群(Central Sleep Apnea Syndrome : CSAS)」の2種類がありますが、本ページでは日本人に多く見られる「閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」についてご説明します。
OSASでは、以下のような症状が見られることがあります。
以前、山陽新幹線や高速バスでの居眠り運転事故がきっかけで、OSASの社会的認知が高まりました。事故を起こした運転士もOSASの診断を受けていたことが判明しています。
日本では、OSASと診断されていない潜在的な患者数が300万人以上と推測されており、特に働き盛りの男性に多いとされています。肥満が要因の一つとされていますが、アジア人のように顎が小さい人種では、やせ型でも発症リスクがあります。
「いびきは指摘されたことがないから大丈夫」とおっしゃる患者様は少なくありません。
たしかに、「奥さんにいびきを指摘されて…」というきっかけで受診され、診断に至るケースは非常に多くあります。 特に、
こうした場合は、OSAS(閉塞型睡眠時無呼吸症候群)を強く疑います。
一方で、いびきのないOSASも決して珍しくありません。
また、入眠時や飲酒時のみのいびきであれば、あまり心配のないケースもあります。
そのため、当クリニックでは「いびきの有無」だけにとらわれず、日中の眠気や熟睡感のなさなど、他の症状もあわせて総合的に診察させていただきます。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は「眠りの問題」と思われがちですが、実は多くの病気と密接に関係している全身の疾患です。高血圧や心房細動、心不全、糖尿病、うつ、慢性腎臓病(CKD)、COPD、さらには認知機能低下やがんリスクまで関与しています。
OSASはこれらの疾患のリスクを高めるだけでなく、すでに罹患している方の症状や経過にも悪影響を及ぼすことがわかっています。
さらに、逆の視点で見ると、既にある疾患がOSASの存在を気づかれにくくし、見逃される原因になることも少なくありません。
OSASには、以下のような特徴や背景がある方に多く見られます。
体内の脂肪が”のど”まわりにも蓄積し、気道を圧迫してしまいます。“メタボの半数はOSAS、OSASの半数はメタボ”とも言われるほど、深い関係があります。
首まわりの構造が狭いと、舌や喉の組織が気道を塞ぎやすくなります。仰向けで寝ると舌が喉に落ち込みやすくなるのも特徴です。
特に40〜60代の働き盛りの男性に多く、閉経後の女性でもリスクが上がります。
喉の粘膜がむくみやすくなり、気道が狭くなる原因になります。
体型や顎の構造は遺伝するため、ご家族にOSASの既往がある方も注意が必要です。
SASの原因に関して、患者様からよく聞かれる質問はこちらにまとめています。
ご自身の不安を解消できるかもしれませんので、是非ご参照ください。
AHI=睡眠1時間あたりの無呼吸あるいは呼吸が弱まる回数
REI=記録1時間あたりの無呼吸あるいは呼吸が弱まる回数
また、中枢性無呼吸(CSA)や他にもナルコレプシーなどの過眠症や周期性四肢運動障害などの睡眠関連運動障害、REM睡眠行動障害などの睡眠時随伴症や睡眠関連てんかんなどが疑われる場合は終夜睡眠ポリソムノグラフィ(入院での検査)が必要であるため、専門施設に紹介させていただきます。
「1時間あたりの無呼吸回数(AHI)が15回以上」あるいは
高血圧や心疾患、糖尿病や一部の精神疾患をお持ちの患者様の場合は
「1時間あたりの無呼吸回数(AHI)が5回以上」
を認める場合に睡眠関連の呼吸障害とされ、眠気や疲労感などの症状とあわせてOSASと診断されます。
CPAP治療の保険適用の基準は簡易PSGでAHI 40以上、もしくはフルPSGでAHI 20以上になります。
OSASの早期発見、早期治療は睡眠の質改善だけでなく、さまざまな疾患予防にもつながるため、疑いがある場合は早期に診察を受けることが推奨されます。
SASの検査に関して、患者様からよく聞かれる質問はこちらにまとめています。
ご自身の不安を解消できるかもしれませんので、是非ご参照ください。
当クリニックでは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を「いびきの病気」や「眠気の病気」としてだけでなく、将来の心血管疾患や脳卒中、糖尿病などの重大な合併症につながる“全身の病気”と捉えています。
そのため、単なるCPAPによる治療にとどまらず、患者様一人ひとりの体型や生活背景、併存疾患を踏まえて、最適な治療法を一緒に考えていきます。
睡眠の質を改善することは、日中の集中力や活動性を高め、仕事や家庭生活の質向上にもつながります。
当クリニックは、睡眠を通じて皆さまの健康と日常の豊かさを支える医療を提供いたします。
気になる症状がある方、健診で指摘を受けた方は、ぜひ一度ご相談ください。
「無呼吸にはCPAP(シーパップ)!」というイメージをお持ちの方も多いと思いますが、そもそもOSASなのか?OSASの重症度は?マスクが合わない場合は?など、患者様一人ひとりの状態に合わせ、ご自身でできる対策や治し方を選んでいく必要があります。
OSASでは、睡眠中に舌や軟口蓋が気道を塞ぎ、呼吸が止まったり浅くなったりします。CPAPは、鼻に装着したマスクから空気を送り込み、一定の圧力で気道の閉塞を防ぐ治療法です。
治療の方法は以下の2種類があります。
通常はauto CPAPから開始し、使用状況やデータをもとに、どちらが患者様に適しているかを毎月評価していきます。
CPAPを適切に使い続けることで、次のような効果が期待できます。
とくに、1日4時間以上の使用で、こうした効果がより明確になるとされており、無理なく続けられるよう、快適な使用方法の調整を行っていきます。
途中で治療を中断すると、ほとんどの方で再び無呼吸が出現するため、継続的な使用が重要です。
マスクは次の2タイプがあります。
初期導入では、装着感が軽く呼吸しやすい鼻マスクタイプをおすすめしています。
CPAP治療に関して、患者様からよく聞かれる質問はこちらにまとめています。
ご自身の不安を解消できるかもしれませんので、是非ご参照ください。
当クリニック内で治療は完結しないため他クリニックへの紹介を前提としています。
OA(Oral Appliance)は、就寝時に装着するマウスピース型の装置です。下顎を前方に少し移動させることで、舌の付け根(舌根)が喉の奥に落ち込むのを防ぎ、気道を広げる働きがあり、その結果、無呼吸やいびきを減らす効果が期待されます。
軽症〜中等症のOSASの方や、CPAPの使用が難しい方にとって有効な選択肢です。
また、OAはCPAPと併用あるいは使い分けができるのも特徴で、「旅行中はOA」「自宅ではCPAP」といった形で柔軟に活用されている方もいらっしゃいます。
短期的には唾液の分泌が増えたり、歯や歯ぐきに違和感を覚えることがあります。
長期的にはかみ合わせ(咬合)の変化を引き起こす可能性があるため、歯科での定期的なチェックが重要です。
OAは一部自由診療扱いとなり、費用はマウスピースの種類や素材によって異なります。
詳しい費用や作製方法については、紹介先の歯科医院にてご確認ください。
OSASと肥満(特に内臓脂肪型肥満)との関連性は非常に強く、減量は治療効果を高めるための重要なアプローチとされています。
減量の基本は、シンプルですが「食事改善と運動」に尽きます。
すぐに効果が出るわけではありませんが、CPAPやOAを併用しながら徐々に重症度を下げていくことが可能です。
といった全身の健康状態の改善にもつながる可能性があります。
また、CPAPとの併用でより効果が高まることが知られています。
次のような条件に該当する方で、生活習慣の改善だけでは効果が見られない場合、減量手術が適応となることもあります。
このような場合、6ヶ月間の治療を継続しても改善が見られないときには、専門の医療機関へのご紹介が可能です。
手術や内視鏡治療などをご希望の方はお気軽にご相談ください。
OSASの改善には、禁煙や過度な飲酒を控えることも重要です。
喉の粘膜に炎症やむくみ(浮腫)が起きることで、気道が狭くなりやすくなるため、結果として無呼吸が悪化する可能性があります。
生活習慣のちょっとした見直しが、治療の質を高める第一歩になります。
体位依存性OSASというタイプの方では、寝る姿勢によって無呼吸の出現頻度が大きく変わります。
仰向け(仰臥位)で寝ると気道が狭くなりやすく、横向き(側臥位)で寝ると無呼吸が半分以下になる方もいます(横向き寝によりAHIが50%以上減少する方)。
このタイプは、特に若い方やBMIが低い方に多いとされています。
枕や寝具の工夫を含め、横向きで眠れるような環境を整えるだけでも症状が改善することがあります。
体位依存性OSASは睡眠検査(PSG)で診断可能であるため、気になる方は一度ご相談ください。
ナステントは、ご自身で鼻に挿入して使用する、
チューブ型の医療機器で、就寝時に片側の鼻腔に挿入することで、気道の確保をサポートします。
OSASにおける無呼吸指数(AHI)の減少効果が報告されていますが、以下のような方には不向きです。
「CPAPはハードルが高い」という方にとって、選択肢の一つとなることもあります。
詳しくはこちらをご覧ください。
当クリニック内で治療は完結しないため他クリニックへの紹介を前提としています。
口蓋扁桃を摘出し、軟口蓋・口蓋垂を短縮して、喉の空間を広げる手術です。
成功率は50〜60%程度で、軽症の方が適応です。
いわゆる「のどちんこ」周辺の粘膜をレーザーで広げる日帰り手術です。
しかし、OSASへの効果は限定的で、OSASの治療としては国際的には現在推奨されていません。
鼻づまりが強い方に適応があります。OSASそのものを治す効果は明確ではありませんが、生活の質(QOL)を改善する効果が期待されます。
当クリニック内で治療は完結しないため他クリニックへの紹介を前提としています。
舌の筋肉(上気道開大筋)を電気刺激で活性化させ、気道の閉塞を防ぐ新しい治療法です。
これにより、睡眠中の無呼吸を減らし、呼吸を維持しやすくします。
適応が限られた専門治療となるため、ご希望の方は適切な施設をご紹介させていただきます。